暮らし・なりわい・子供の育み・地域・価値創造等について、日頃楽しくも真剣に向き合うオッサン2人が80分間好き勝手にダラダラ喋った全記録…話していた内容は、以下のとおりです。
トークライブに参加された多くの方の心に響いていたという話は、どんな内容だったのか…
荒西浩人(1970年生)…大阪市内から兵庫県篠山市にご家族で移住し、家具製作や内装プロデュースをなりわいとして生き方そのものに自分らしさを見出している男
河合義徳(1967年生)…大阪市西区で顔が見える範囲のコンパクトな循環型経済の創造をめざし、各事業者や各種コミュニティの文化形成サポートをなりわいとする男
河合 皆さんようこそお越しいただきました。この場所「session STUDIO」を運営していますバックステージの河合です。今回仲間と一緒に「こもれびと」というマルシェをやっていますが、このマルシェ会場でトークライブをやらせて頂くことになりました。
45歳の荒西さんと48歳のボク…おっさん2人でダラダラ喋るだけのものなんですが、お互い本人達が、今日の実現をすごく楽しみにしていたものなんです。
ご紹介します。篠山市で6[rock]という木工と暮らしの店をされている家具職人、荒西さんです。
荒西 こんちわ!(拍手)
河合 ご存知の方も多いかと思いますが、荒西さんは、複数名のユニットで創られた中之島にある家具屋さんgrafの創設メンバーです。その後grafを抜けられて、今年で5年目となるそうですが、現在はご家族全員で篠山に移住されています。
それで…このトークライブのきっかけになったのが、今から半年くらい前でしたっけ…荒西さんがfacebookに何気なく記載されていた自然体な記事に、ボクがめちゃくちゃ反応したんですよね?その日…深夜何時くらいまでかなぁ…チャット形式で、熱く語り合っていたんですよね…おっさん同士で(笑)。
荒西 そうそう…なんか…このヒト、くどいんですよ(笑)…ボクの一言が、15倍くらいになって文章が返ってくるんですよね。
河合 途中から、それに釣られた荒西さんも長文になりはじめ、お互いの熱さが負けたくないみたいな感じになって…(笑)
荒西 そうそうそう!こちらが文章打っている間に、相手から文章が入るようなことも続いて、最後は競い合ってましたね…(笑)
河合 ボクは、荒西さんがgrafで家具づくりをしておられた頃から、荒西さんの「パーソナリティ」に興味を抱いていました。当時からお話しさせてもらっていたこと以外に、個人ブログでも「人となり」が自然体で表れていました。大阪市に働きかけて小学生向けの家具づくりワークショップを実践したりして、社会的意義というか信念を感じる言動が多かったんです。
そうした中…突然、ご家族全員で篠山に移住されて、あらためてご自身のお店を開業されました。ボクは今年のお盆に、荒西さんのところを寄らせてもらったんですけど…あの日、営業日ではなかったんですよね?…お店は週何日営業されているんでしたっけ?
荒西 火水木が定休で、週4日営業しますけど…昨日なんて、黙って閉めていました。今日も土曜ですけど、休みにしちゃいました。(笑)
河合 極端な話、週に2~3日しかお店を開けていないことも…?
荒西 …あります(笑)そして、もうすぐ、冬季休業もあります。12月から3月末日まで、正味4カ月休業します。一年のうち、4か月間はお店を開かないです(笑)。
河合 基本的には週4日営業で、しかも年8カ月しかお店を営業しなくても暮らしていけるやり方があるんやな~っていうことも興味深いんですけど…その話はまたの機会に置いておいて…今日は、半年前にボクと荒西さんがチャットでどんな話をしていたのかを軸にお話を掘り下げますね。
河合 以前、facebookの中でボクとやりとりしていた荒西さんの言葉、ご自身で覚えてはります?…
「スローライフとは、ゆっくり過ごすのではなく、気持ちの中の意識のことである」…こんなん言うてはったん…。
荒西 うわっ…カッコいいっ…。誰が言うたんやそんなん。(笑)
河合 どこか「スローライフ」っていう言葉は、世間ではカッコいい感じの憧れを惹きつけるような言葉で捉えられがちですよね…。競走社会やギスギスした世界に疲れて、「もうラクになりたいからスローライフな感じで生きるねん」というところでも使われてしまうところもあったりして…
荒西 そうそう、ちょっと「引退してゆっくり過ごす感じ」みたいなイメージね…。それはダメですね。「逃げ」に入っていますね。
河合 ホンマのスローライフって、実際問題、全然違うんですよね。これについては、篠山での荒西さんの暮らしぶりをお話し頂くので、のちほど出てきます。
それから…ボクに返信いただいた言葉にあった印象的なことの二つ目が、次のことです。
「我を知れば我の暮らしが見えてくる。自分サイズに合った生き方普通にすることが困難な時代になりましたよね。」っていう言葉。
荒西 あ~…エエこと言う、ボク。(笑)
河合 ホンマ…どこぞの哲学者かと思いましたわ。(笑)…せやけど、この二つの言葉はとても意味があるし、深いな~と敏感に反応していました。
「我の暮らし」や「自分サイズに合った生き方」ということに関してなんですが、ボクも以前から、仕事やプライベートを通じていろんな人との関わりを持たせてもらう中で、一人ひとりに「自分」というものをしっかり持っていない人が多いということを感じていたんです。これは今後の社会を考える上で、とても大きなポイントになるなぁと…。
それと最後の三つ目ですが、荒西さんからは、最近になってこんな言葉もボクに返信してくれています。
荒西 なんでしょう?
河合 荒西さんはご自身の仕事・なりわいを、「ボクは家具を売るという商売というより、環境を売る商売なんです」と表現されているんですね。
荒西 うわ~…すげっ!(笑)
河合 はい…(笑)…こうした深い言葉を発しておられる荒西さんに、ここからご本人に直接語って頂きましょう。もともと荒西さんがユニットを組んで立ち上げたgrafさんって、すごくファンも多いお店になっているのに、創設メンバーだったお一人であるにも関わらず、篠山移住で個人開業を選んだ…まずは、その辺りの経緯や理由をお聞かせいただけますか?
荒西 了解です。なぜそういう選択をしたかっていうのは、先ほど言ってもらった「環境を売る」っていうところに関係あります…。
人は、「自分でこうしたい、自分でこう生きたい」という意志はあっても、実際にはそれを実現できていないこととか、動くことすらできないということが、たくさんあったりしますよね…。ボクは、中之島という大阪とは言え都会のど真ん中で仕事していて、大袈裟に言うと、自分でカラダを張って篠山のような田舎に家族を連れていくということで、いろいろ家具をやっている人達など、みんなに影響させたいっていうのもあったりしました。
河合 カッコええ…(笑)
荒西 いえ、別にカッコつけてるわけでもないんやけど…(笑)…みんな「自分の生き方がワカラナイ」というのは…今は情報量がすごく多いからかもしれません。
確かにパソコンがあれば、いろいろ情報が入ってくるし、デパ地下でも歩いたら、「うわ…こんなお惣菜食べたい」とか「このケーキも食べたい」っていうのが目に飛び込んでくる…そういう情報がたくさん入ってくるのはありがたいことです。
でも、ボクがもっとシンプルに生きたかったのは、「自分の周りに情報が入ってくる環境を持たせないようにした」っていうのが一つあります。つまり、自分を不便に陥れることで、「自分を便利なように改造して生きる」っていうこと…これをボクは「学び」と言っているんですけど…そういうことにしていくことで「生きる技能」を上げているということなんでしょうかね。
河合 確かに「便利すぎる環境」を身の周りにおくと…「生きる技能を上げる」ということを少しずつサボり始めますよね…。
荒西 そうです。サボり始めた瞬間に、「自分」というものがワカランようになって、雑誌に載っているものだとか、テレビに出ているものだとか、ブランドになっている有名なものばかりを選ぶようになっていきますね。もちろん、「全員が」というわけではありませんが…
河合 確かに、一般的には、有名なブランドになっているものから、選びがちですね。
荒西 そう…。例えば、今回ココでやっているマルシェは、そういう感覚ではなくて、河合さんらの「つながり」とかで集まった人が「モノの良さ」を引っ張り上げているじゃないですか。その「良さ」を、もっと個人個人の意識レベルとして、持たないとあかんと思うんですよね。
ボクがイヤなのは…「これはテレビに出てたからエエよ」とか、「コレは知らんし、有名ではないからあかんやろ」とか…。その「良さ」は、一体、誰が決めたのだろう?ということなのです。
結局、ここで大切なこととしては、それが有名かどうかではなくて、日々生きている人達の意識や考える能力を高めていかないと、有名な人やモノしか、世に出て来ていない気がするんですね…。でも、食べ物でも、作り物でも、家具でも、音楽でも、なんでもそうなんですけど、ホンマにエエもんって、いっぱいあるんですよね。
そういう所の情報の出し方が、なんだか随分「一方的過ぎる」ような感じがします。
河合 つまり、本来自分なりの生き方とか、暮らし方とか、家族との向き合い方とか…それを見つけるチャンスはいくらでもあるんやけど、「便利すぎた社会」になっていることで、そういう意識を高めることが麻痺してしまっているのかもしれませんね。生活者一人ひとりのブランドのとらえ方が、過剰に「ブランド」だけに反応していると、ブランドに自分が染まってしまっているような感じになってしまっているということでしょうか…。
一方で、本来「自己」というものがあって、それに合ったもの探し続けるべきなんやけど、その「探し続ける」っていう行為って、結構しんどいこと…。そこで、世の中便利になり過ぎたことから、ラクをする癖ができて…ブランドには安直に「依存」してしまうという傾向にあるっていうことなのかもしれません。
そうした中で、荒西さんの言葉「自分は家具を売っているのではなく環境を売っている」というところにつながりますよね。…つまり、「あなたという環境は、あなた自身がつくるべきです。もしくは、よろしければボクもその環境をつくるお手伝いはできますよ。」っていうお仕事なわけですよね?
荒西 そう!結局ボクらがやっているのは…「裏方仕事」なんですよ。裏方の人間や、裏方のモノが表に出過ぎてしもたら…ちょっと意味合いが変わってくるんですね。
やっぱり、個人個人の意識が、もっと「自分らしいあり方」をしっかりと表に出してもらって、それに沿うように裏方がモノを造っていく・流していく…それがあって「個人」というものを確立していく・自分らしさが形成されていく…それが良い形で循環されていくべきだと思うんですね。
河合 この話に関係するものとして、少し別の話題を挟みますが…日本の人口は、過去たった100年で3倍増え、これから2030年までの15年だけで、20代・30代の人口は、現時点から約30%減る・2050年には、約50%減るという日本全体の過疎化が始まります。それは国土交通省のデータでも出ていることです。
つまり、ボクらだけでなく父親や祖父の世代も経験したことがない「急激なマーケット縮小」という環境を迎えて、それでも経済を回して食べて行かないといけない時代に入るわけです。ボクらはまだ、過去の経済遺産があるかもしれへんけど…今の子供達が大人になったころの経済環境なんてどうなることやら…。荒西さんのお子さんは、おいくつでしたっけ?
荒西 まだ…小学校一年生と保育園に通う子ですわ。
河合 20代・30代が今から30%も減っている15年後って、ちょうど荒西さんのお子さん達が社会人になるころなんですよね。
荒西 まさにそうですね。
河合 その圧倒的に人口が減った時代でも、モノづくりだとか暮らしの中からいろんな価値を創って、貨幣も回していかないといけないんやけど…今はどちらかというと、情報とモノが溢れかえっていて、モノの選び方や自分らしさを探すのがしんどいから、ラクをしてブランドに傾向にあるという話が先ほどありました。
それは、決して一人ひとりが悪いわけではないんやけど…それでもみんな「ラクすること」ができてしまう社会環境になってしまっている…これからより一層の価値創造力が求められる社会環境になるのに、それで良いのか?…生きる技能を下げてしまってばかりで良いのか?と疑問に思いますね。
そうした中、荒西さんが、都会を離れて篠山に移住して、敢えてラクをしない生活環境に身を置く行動をとられたことは、とても意味があることやと思っています。
…ところで、12月から3月までの冬季休業中って、荒西さんは主にナニをしてはるんですか?
荒西 主に仕事をしてます…(笑)。工房に入って集中して製作仕事をしているんですわ(笑)。
なぜか世間では、「店を休む=悪」だとか、「休日=さぼっている」だとか…えっと、スミマセン…語弊がありますが「知らんくせに表面だけで言うな」と思うことがありますね…(笑)
「お店開けている時は、ボクはお店に立っています。4カ月お店休んでいるうちも、それ以外の月の閉店日も、実は製作仕事はしています。」…それなら、ボクはいつ休んでいるんやろ?っていう話ですわ(笑)。
冬季休業中は、もちろん、家族と遊ぶ時間もつくりますけども…春に向けての製作仕事だとか、うちも古民家なので、内装を替えたり改修したりとか…いろいろやるべきことが、たくさんあります。だから…「休んでいる=サボっている」っていうイメージって、一体ナニなんやろうなって思ったりしますね。
河合 どうも世の中、表面的なところで自分と比較して、優位に立とうとしてみたり、人と見劣りしてないかと気にしている人が多いから、そういう意識の人にしてみれば、休んでいるということが、怠慢や悪の象徴で揶揄する人が多いのかもしれませんね…。でも、確かに暮らしも仕事も楽しんではいるけど…ラクはしてないですよね。
荒西 ラクは全然していないですねぇ…。言うたら悪いですけど…人よりも仕事はやっています。それから、毎週土日は、自治会の副会長の仕事もありますし、明日も朝7時半から、PTAの仕事で廃品回収もやったりしますし…。
やっぱり地域のことにも、ちゃんと根付いてしっかりやることと、外に向いて…つまり自分の店からいろんな価値を配信する仕事…どちらもきっちりやった上で、遊びというのは付属であると思います。だから、ボク自身は、とことんバランスよくやっているつもりですよ。案外、時間も分刻みだったりする慌ただしさもあったり…。
でも、そういう実態を知らずに「田舎暮らしでのんびりしていてええなぁ」とか、皮肉を交えて言われたりすることがあったりしますね。
河合 田舎暮らしって…実はめちゃくちゃ生活力も生命力も要るし、今語って頂いたように、自治体とか地域の関わりって、めちゃくちゃ大変やし、それができなかったら、その地域では生活できないくらいのコミュニティ力ですよね。それ、これから日本全体の人口が思いっきり減ってマーケット縮小していく環境下でも、同じことを言えると思うんです…。
荒西 そうですね。ホンマ…近所づきあいできない人は…ダメですね。
河合 都会ではマンション暮らしも多い中、管理組合の理事の順番が回ってきても「そんなん、自分は他の人と関わりたくないから辞退するわ」という人も多いのが実態ですが…それもよくよく考えたらめちゃくちゃアホな話なんですよね。自分達の資産のことやのに、近所づきあいがしんどいから戸建てではなくマンションを買うという勘違いのヒトも多いんです。
マンションなんて、平面ではなく縦てに伸びた「長屋」なわけやから、長屋生活している以上は、掃除や防犯や子供達の育みなど真剣に考えないとアカン…そうなると、近所づきあいから逃げられるわけではない。結局は、田舎暮らしと何も変わらないはずなんですけどね。
荒西 そうなんですよ。田舎暮らしはその「あたり前」が露骨にあるから、余計に逃げられない。
結局、田舎暮らしは「体力」が要るんですわ。毎日、何かしらやることはありますからね。
確かに、ボクの仕事は、音もホコリも出る仕事やし、田舎に行けばランニングコストが安く広い敷地が確保できて、ノビノビ仕事ができるというのも移住のポイントではありました。
そうしたところに、団塊の世代よりも上の年配の方が、よく篠山移住で来はるんですけど、田舎でゆっくり暮らしてというイメージとは程遠い現実もあって、体力も必要だったりするので、実際のところ篠山では大体7割の人は、都会に戻って行っていますね。それが現実です。年老いてからの田舎移住は…ホンマに本腰入れないと無理ですわ。体力がないとね…。
河合 そういえば、荒西さんは、そろそろ薪割りをせなアカン頃でしたっけ?薪ストーブの冬支度そろそろしておかないと…凍え死にますもんね(笑)
荒西 そうそう、今、がっつり準備しているところです(笑)
でも、そういうことを、効率よく冬を楽しみながら生きるっていうことが大切であって、お年寄りだったり病気されている方は大変やし、真夏の農作業なんて、ヘタしたら熱中症で死んでしまいますよ。だから、田舎暮らしの憧れと現実の差を体感されて、都会に戻って行く方が多いです。
河合 これが、リアリティですよね。
しかし、一方で、いろんな覚悟もあった上での荒西さんの暮らしぶりを見ていたら、篠山の近くにある林道をオフロードバイクで駆け廻ることを楽しまれている。また、篠山に住んでいると都会には来ないのかと思えば、今日もこの後、千日前の味園ユニバースに行って、ライブでドラム叩きに行きはったり…楽しいことも何一つ犠牲にすることはない感じですよね。
要は、利便性・合理的なことばかりに頼り過ぎて何かに依存しているより、ラクではないけど楽しい事を探求する道の方がイキイキすることもあって、自分らしさを発揮できたりする。結局、暮らしの中になりわいもあるし、暮らしの中に自分自身や子供の育みもあるし、暮らしの中に遊びもみつけられるということを考えると、仕事と暮らしと遊びを分断する必要はなかったりしますよね。
荒西 まさにそう!!ボクは、造り終えた家具の配達に行く時、嫁子供をクルマに乗せて行ったりすることもあるんですよ。(笑)
河合 お!それ、いいですね!(笑)
荒西 納品仕事やのに家族も連れて行くの?って言う人もいるかもしれないけど、ボクにしてみたら、ボクの家族のためにもお客さんは家具を注文してくれてはるんやし、実際に運搬業務では嫁さんに手伝ってもらうことだってあるんです…。要は、お客さんにボクの家族のことも見せるっていうのは、ボクの中ではめちゃくちゃスタンダードやったりしますよ。
河合 うわ~っ…めっちゃエエっすね!
時には、納品された家具をホンマに喜んでもらったお客様から「ありがとう」と言われる瞬間を子供さん達に感じてもらうこともあるやろうし…お客さんとのやりとりの成り行きで謝らないといけない場面があったとしても、それも家族に見られることは悪い事ではない…つまり、子供って小さなうちから、親が働く場面のリアリティを感じてもらうっていうのは、最高の教育ではないでしょうか!
荒西 そうなんですよね。子供がお父さんやお母さんの仕事って、何しているかわからへんと言う子がおったりしますよね。先日も、うちの庭の手入れをしてもらった植木職人さんに「自分が仕事しているところを見てもらうのに、お子さん連れて来たらええやん!」って言うたところなんです。
河合 そうそう…これはボクの暮している堀江で感じたエピソードなんですが、地元ミニバスケのチームで、子供達との触れ合いの中にそれに関連する話があります。
バスケットシューズをポンと放ってしまった子供が、指導者に凄く叱られた時、子供達に投げかけた時のこと。「何千円とか一万円以上もする君らが履いているバッシュ(バスケットボールシューズ)を買ってくれているお父さんやお母さんって、誰からお金をもらっているの?」と…聞いてみると、7割以上の子が…「社長!」「部長!」と上司であると答えるし、中には「銀行のATM!」と答えてしまう子までいたり…(笑)。
荒西 え…そんな子まで…(笑)
河合 そうした中、和菓子屋さんのご長女が静かに「お客さんです」と答えるんです。朝早くからあずきを湯がいたりお餅を作ったりするお父さんの姿、それから、店頭で丁寧に説明して一個150円のお菓子を笑顔で包んで深々とお客さんを見送るお母さんの姿…そういう親の背中をみて、いつも喜んでお金を渡すお客さんの笑顔も見ている。つまり、親の働く姿、お金を払って頂ける瞬間を見ている子は、ボクの質問には自然体で答えが出てくる。「お客さんがおカネを払っていただいています」って…。
どんな仕事でも、常にお客さんに喜ばれるための努力や挑戦を惜しまないその対価がお金になって、そのお金が自分達の足を守るバッシュに替わっているということを理解すると…指導者に叱られるからバッシュを放らなくなるのではなく、深い感謝や想いで放れなくなるんですよね。
でも、大半の子供達が、お金は社長や銀行ATMがつくっていると誤解している実態って、仕事やなりわいと、暮らしやプライベートが分離されすぎてしまっていることが一般化してしまっている象徴的なことかもしれませんね。
荒西 ホンマにそうですね。その和菓子屋さんの娘さん…素晴らしい。
河合 大きな会社であっても、うちの会社は「どこにいる誰にどういう幸せを提供するための価値を創ることをなりわいにしている」ということは、新入社員研修で学んで、その価値創造に向けたベクトルが一緒になって仕事していくはず。
だけど…配属された営業部、総務部、経理部で、いつの間にかその本質を見失って、やるだけの事はやりますから給料くださいという権利主張ばかりするようになることも多かったりして…。そうすると、仕事とプライベートは分離されていく傾向が高くなります。
それで…「自分には稼いだお金がある」…つまり「お金があるから」とか「お金さえあれば」という認識になった瞬間、自分で自分らしい暮らしを探すようなしんどいことは避けて、「お金を払うんやから私を満足させて」という流れになりがちですね。
挙げ句の果てにはお金を持っている人で勝ち組や負け組とかという尺度が世間では蔓延するようになった気がしますね。以前、荒西さんも、このこともボクとのやりとりで触れて頂いていましたね。「勝ち組とか負け組とかっていう表現…アホとちゃう?おしゃれ風の生き方なんてクソ食えやわ…」って…社会風潮に噛み付いてはった…(笑)
荒西 そう言うてましたね(笑)…結局、楽しみをお金で買うようになってしもたんでしょうね。自分で楽しみ方を見つけること自体を楽しむっていうことをしなくなりましたね。だから、自分なりの楽しみ方を創るっていうことがすごく弱くなってしまっていますよね。
例えば、オトナがザリガニ獲りをすることなんかすごく減ってきているから、自然と子供達もそういう楽しさを伝えられる機会が減っている…それって致命的なことやと思うんです。
それが、さっきお話ししていた「ラク」なことを選択してしまっているということです。もう行き過ぎた話になると、手をかざしたら勝手に開くドアだとか、ボタン押したらエンジンがかかるとか…なんだか便利なことの極度というか、「もう…ここらでええやん」というところも超えてしまってる気がしますね。利便性の部分だけを、意味のない小学生のやり合いのような変な競争生んでしまっているように感じるんです。
河合 ワカリマス…(笑)
荒西 もちろん、アナログであることが全てではないですし、パソコンのような便利なものは使っていますけど、どんどんそんな意味のない競争をしても、脳みそが弱くなってしまうのと…ボクはいつもいろんなところでも話していることなんですけど、今みんな…「不安」をお金で買おうとしている気がするんです。
昔はお金も無くて何もできなかったから、自分で干物をつくったり、漬物をつくったりしてたんやけど、今はそういうものも手軽に買えてしまうので、面倒くさいことはお金に頼るようになってしまった感じですよね。そこは「面倒くさい」からではなく、「勉強になる」からそれをやってみようとする精神が無くなってきているように思うんです。
日頃仕事がとても忙しいことも影響して…そういうことをやる「時間」もないと…あれ?…なんかこう、ちょっと精神論みたいな話になってきましたけど…(笑)
河合 いえいえ、そこはとても大切なところやと思いますよ。そこは拾えます(笑)…要は、本来、みんな何のために働いているかと言うと「お金」を稼ぐためではなくて…何かしらの「価値」を創ったり、自分自身で「楽しみ」を創るために働いたりするだけのことなんやけど…
荒西 そう!そこなんです!それなのに、今は、みんなお金を稼いで貯めることで、自分で自分の不安を煽るようになってしまったりして…
河合 それが繰り返されるから、みんな何かに「依存」してしまう悪循環になる…
荒西 そうです!そして、僕が言いたいのは、「お金」と対極にあるといっても良いのが「技術力」やと思っています。
お父さんが自転車のパンクを自分で修理するとか、今はもう無いやろうけど、屋根の板張りを自分で修復するとか…(笑)…ボクは今、なんでも自分でやりますけど、それは「勉強」するからできるのであって、「それはボクにはできない」ではなくて、「やってみる」ということをしなければダメやと思います。そうすることで一人ひとりに「技術力」ができて、そのレベルが上がっていくたびに「お金指数」「お金に依存する」ことが下がってくる。
これって、「お金」と「技術」のバランスっていうことになるんでしょうけど、昔は生きていくための「技術」があって「お金」が少なかった。今は過剰に「お金」が中心になっている。このバランスがちょうど良いところが、個人個人のレベルになると思います。
河合 そう言えば…よく「クリエイター」という言葉って、デザイン関係やアート系のお仕事の限定的な代名詞のようになっていますけど…実は一人ひとりが、自分らしい暮らし、自分の家族らしい暮らしを自分で創るクリエイターになるチャンスっていうのはあるはずなんですよ。
荒西 そうですね。
河合 だけど、そのクリエイティブなことを、先ほど荒西さんにお話し頂いていたように、全てお金での解決に頼ってしまうところで、その能力を埋もれさせてしまっている気もしますね。それによって、どんどん個性が失われる中でのおカネの循環になるから、「顔が見えない」流通になってしまっている。
そうした中、篠山で家具を作っている荒西さんとお客さんとの関係性が、とても素敵なんです。たとえば…お客さんには納品時に、ひと手間手伝ってもらうことも…。
荒西 えっと…ひと手間というか…配達するときに、お客さんに手伝ってもらうことはありますね(笑)。そうすると、お客さんも配送料は半額になるし、ボクも人を雇わずに済むので、めちゃ助かるし…(笑)…。
河合 そういうお客さんとのやり取りが生まれるということは、おそらく荒西さんご自身も、個々のお客さんに「どういう暮らしをしたいんですか?」というヒアリングからスタートされていると思うんです。暮らしの考え方や、求められる家具の機能やサイズ…そして雰囲気などいろんなことを引き出す…つまり、「カウンセリング」をされておられる気がします。
だからこそ、納品する時にお客さんに手伝ってもらうなんて…どこか「作り手と使い手」に、一体感が生まれやすいんと違うかなぁと…。
荒西 なるほど…家具屋と名乗っているボクが普段やっていることは、もしかしたらホンマに…「カウンセリング」なのかもしれないです…。それ…grafにいた時からやっていたことなんですけど、「コレ欲しい」というお客さんがいたら、なんでコレが欲しいのかという理由を聴くんです。それで、家はどんな感じで、どんなサイズ感で、そもそもどんな暮らしがしたいのか?っていうことに話が進む。
そもそも物事って、理屈やコンセプトがあるからそこに到達するのに、コレが欲しいからという部分だけでモノが買われていくっていうのは…ボク…どこか切ないんですよ。
個人のサイズ・個人の暮らしへの想い・個人の感じ方や生き方があってこそ、こちらから環境を作ってあげられることなんやけど…それが「あたり前」のこととボクらが思っていることを認識されているお客さんが案外少なかったりします。
河合 そう…一人ひとりのお客さんにとっては「我が事」なんだけど、我が事のことを知らない消費者が多いというのも、今の実態かもしれませんね。一方で、荒西さんのところをわざわざ篠山まで訪ねる人って、自分の暮らしにはクリエイティブなんだけど、自分では実現することができないモノづくりの部分を、荒西さんに相談や制作依頼をお願いしに行っているスタンスの方が多いんとちゃいますか?
荒西 そう!実現することを「手伝ってくれませんか?」というスタンスです。
河合 だから、モノを買いに来ているというよりかは、「自分が描いたクリエイティブなことを形に替える能力」を荒西さんに買い求められに来られているわけですね?
荒西 結局ね…極端な例でいうと、自分で作れるんやったら作ってみたらエエやんっていう事もありますよ(笑)…。自分で、どういう風に作ったらええのか、教えるんですよ。
河合 え?…それやったら商売にならへん時もありますやん…(笑)。
荒西 それでええんですよ(笑)。だって、自分でできるんやったら、人に頼む必要ないですし…。木材はこういうのをホームセンターで買って、塗装も体に悪くないのがこういうのがあるし、塗料が余ったら床塗りとかにも使えたりしますよって、どんどんお教えしています。…それに、例えばダイニングテーブルやったら、参考になるものがどこそこで売っているから、全部見に行ってみたら?ともお伝えします。でも、それでええんです。
それで、自分でつくることや他の家具屋も全部見て、それでもボクに造ってもらわなアカンなと思ってもらえるなら、ボクが造りますよっていう感じです。
河合 なるほど…。つまり、自分の暮らしをどんな風にしたいかというしっかりとしたストーリーをお持ちの方には、その実現に向けて環境づくりは自分自身であろうが、プロであろうが、結局、誰がつくろうとも、それはあなたが見出したあなたオリジナルの「価値」なんやし、その「価値」創りに必要とされるならば「ボクもお手伝いますよ」ってことですね?
荒西 そうそう…とてもシンプルやし、明確なことなんですけどね…(笑)
河合 その「価値」を自分で創ること自体に、ものすごく意味があることなんやけど…同じ「カチ」という言葉でも、世間では、どうも「勝ち組」のほうばかりに意識がいきがちですね…。
小さくても少しずつでも良いから、自分自身でバリュー(価値)を創ることをすればいいんやけど…この自分の暮らしの価値や質を上げるというのは、結局は自分自身の日頃の「働き方」にリンクしていると思うんですよね。
荒西 ほう…と、言いますと?
河合 先ほども少し触れたことなんですが…「これはプライベートでこれは仕事」という割り切りが一般的になりがちで、世のお父さん方が遊びをねだる我が子に「今日は会社やから」「このものは会社のやから触ったらあかん」とか…子供には何ら説明になってへんことってよくあると思います。それで、子供達も仕事とはそういうものやというよく見えない感覚から…会社に行ったらおカネもらえるという錯覚が生まれたりする…。
荒西 あ、そうそう…。
河合 自分のお父さんは、会社やお店に出勤に行くのは、おカネを稼ぎに行っているということの前に、お客さんに喜んでもらえる「価値」を創りに出勤しているという認識を子供達が持つようになると、自分も「価値」を創れる人間にならないとアカンなあという認識が生まれるはずなんやけど…。なぜ…こういう話をするかというと…荒西さんは、前の書き込みやりとりで、こういうことも書いてくれてはった。
荒西 何でしたっけ?(笑)
河合 荒西さんから先ほども、クルマやバイクは自分で整備してはるってお話し出ましたけど…。
産業側や業界側が、モノの価値を下げてしまっているケースの話です。
今は、大手企業中心による合理化や効率化を背景に消費喚起…つまり、どんどん生活者が消費をすることを促されていることの中に…それについては「クルマ産業が典型的」と書いておられました。16年以上経ったクルマは、税金を高く設定されるようになり、環境配慮のために排ガスが少なく低燃費な新車を購入しましょうという流れにあるんですが…めちゃくちゃ古いフィアット「パンダ」を丁寧に整備されている荒西さん…燃費16キロは超えてるんでしたっけ?
荒西 燃費20キロ超えるときもありますよ(笑)
そうそう…つまり、そうした整備も含めて、自分で勉強しているかしていないかで、価値も大きく変わります。こういうことを知っているか知らないかという意義で、結構生き方って変わるんですよね。あのクルマは、「ジウジアーロ」っていうデザイナーのカッコいいもんや思って買って乗ってはいますけど(笑)…やっぱり乗っていて楽しいのもあるし…実は日々の行動一つひとつが充実して楽しいものであることが重要ですよね。そして、その楽しさが、しっかりと自分サイズのものであるのかどうか…ソコがめちゃくちゃ大切やと思います。
ボクはクルマ2台と、もう1台いつか直して乗ったろう思っているボロボロのんと、バイクも4台、自転車も4台あったりするんやけど…それ全部合わせても軽自動車の新車買うより安いし…車両保険なんかも上手いこと組み合わせれば安くできる…。結局、自分サイズで好きなことを追求するためには、整備のことやら保険のことまで、勉強するようになるんですね。そして、勉強すればするほど、無駄なおカネを払わなくて済むようになりますよ。
河合 大手企業が中心となって産業全体でクルマ買い替えの消費喚起の流れに巻き込まれると、消費者や生活者が、荒西さんのように、古くて良いモノを大事に使い続けていたりして「価値」を維持しようとか創ろうとしている部分が、蔑ろになってしまうこともありますね。
荒西 もちろん、大手企業が仕掛ける全てを否定するものでもないんです。10年くらい前に訪れた浜松のYAMAHAさんに見学しに行った際でも思ったんですけど…一人でギターを造っている子がいたり、バイオリンを造っているおっちゃんがいたり、サックスフォンのピンストライプに一筆書きで模様を描いている人がいたり…大手でもきちんとモノづくりに「人の手」を入れている過程の部分を見ると…やはりそこに企業が存続している意味を感じますよね。
やはり、そういう現場を見ると、日本のものづくりは捨てたもんやないなと思ったりしています。
河合 そこにしっかり価値を見出して、ものづくりがされていたり、その価値を認めておカネを払う人がいたり…しっかりと「価値」が維持される取引って、大切ですよね。
実は…作り手側が「価値を下げてしまう」ということを、とても残念に思っておられる方が、このマルシェにもおられます。その方は、海外のある島の職人達が創った商品の素晴らしさに感動されて、日本で総輸入代理店となりました。
荒西 ほう…。
河合 単なる商品の機能性だけでなく、材料となっている自然素材に対する想い、そして現地の人達の自然素材を大切にしながら一つひとつ想いを込めて手作りをするものづくりのプロセス、そしてその商品が奏でる素晴らしい価値…それだけではなく、その商品を手に入れて暮らしの中で豊かに流れる時間を愉しむエンドユーザーの姿まで…そんなことの全てをひっくるめて日本で流通させたいと、現地の職人を説得された経緯があります。
荒西 素晴らしい…。
河合 しかし…日本で販売して一年近く経ったところで、供給元の現地と、販売チャネル・流通ルートを持つ大手企業に、その想いはすべてひっくり返されました。大手企業から、小商い事業者では到底さばききれない大量ロットの取引確約の提示でもあったんでしょうね…しかも、その個数を供給するには、一つひとつが手作りだったはずのものが、いずれは機械化による生産体制を敷くことも推察されるわけです。
そうなると、作り手側だって、設備投資の回収を考えると、「想い」よりも「お金」が優先されることとなります。手づくりではなく機械化生産となると…最終エンドユーザーの手元に渡る価格は、少し下がることも予想されますが…。
荒西 それは、もう当初のコンセプトとは違うものになってしまっていますね。
河合 そうなんです。そういう合理化・効率化・システム化の流通システムを利用することによって、結果的にはメーカーにとっても「価値」が下がるという…自分で自分の首を絞めているということになぜ気づかないんやろうということなんですね…。「素晴らしい価値をそのまま消費者に伝えたい」と間に入った人の想いをよそに、モノづくり側が「価値」を認めている顧客を裏切る選択をしてしまった感じに近いわけです。
それでも、先立つものは「お金」となると…大量に物を売るという選択をしてしまうのが世の常。そうなるともう…結局…大量生産・大量消費…創られたストーリーの中でのブームとなり、買い手側もどうしても「雑」に買うことになり…そして飽きられたら安易に捨てられていく。そんな消費スタイルのレールの上に乗せられて「価値」が廃れていくお決まりのパターン…
荒西 うわぁ…そりゃ~そうなりますよね…。
河合 結局は、多少の「価格」を下げることになったとしても、作り手側が実質的に商品の「価値」を下げることにつながってしまうという事例です。そうだとしても、今回は、作り手側が、細く長く愛されることよりも、大量に売り抜けることを選んだのかもしれませんね。このマルシェにおられる方が、当初日本でも紹介していきたい「想い」なんて、どこ吹く風ということになりますから…今回、このマルシェでは断腸の想いで、さよならセールをされています。さっきのクルマの話もそうなんですけど、大切に「使い続ける」ことに価値があるのに、なぜ作り手側や産業側が敢えてそういう価値を維持しようとすることを壊していくことになるのか…まあ、だからと言って、ボクらは業界批判や大手批判をしたいのではないんです。そうしないと維持できない事業形態になってしもてるんやろうし…。
だから、荒西さんと前からお話していたことって…「そろそろ、消費者から買い物に対する意識が変わってもええよね~」という話にもつながったりしていました。
荒西 そうやね。結局そうなんですよね。
河合 先ほどお話しに出して頂いたように、篠山まで出向いて荒西さんのお店6[rock]で家具相談されている方って、少し意識が変わりつつある消費者の象徴になりつつある…いわゆるコアなお客さんとしてなりつつある感じもありますよね。
荒西 そうそう…「ブランド物は、みんなが持っているから…ココに来ました。」という人がうちに来てくれたりしますね。そういう意味では、変わったお客さんというか…(笑)…違う意味で新しいものが欲しいなという部分でうちに期待してくれてはる部分はあると思うんですよね。
そして、そういう人って、家族で配達してもいつも温かく迎えてくれるし…時にはお土産を用意してくれているとか、ケーキを焼いて待っていてくれるとか…それが普通なんですよね。そうすると、そういうお客さんって、リピートしてくれはるから、次にこちらが行く時は篠山の黒豆やお茶を持って行こうとか…自然とそういうつながりになっていく感じです。そういうことって、大企業やない個人事業主やからできるやりとりなんでしょうけどね…(笑)
河合 それは、荒西さんが一人ひとりのお客さんの暮らしとしっかり向き合って、一人ひとりの「顔」が見えているっていうことですよね。単にご来店のお客さんに店頭商品を売っているだけやったら、おそらくその「顔」っていうのは見えてこないと思うんですよ。
荒西 それはそれで、店頭でいっぱい売れたら嬉しいですけどね…イヒッ(笑)
河合 (笑)…でも、その「顔と顔が見える化」って…これからの時代だからこそ大切ですよ。
荒西 そうそう!…ボクね…結局それによって救われている感じですよ!一万円のものを百人に売るんやったら、百万円のものを大事な一人に買ってもらいたいっていうことですわ。そういうところの価値観って、若い時からずっと変わっていません。
一方で、企業の話になったら、ボクよくわからんですけど、今年経常利益何十億、翌年何百億の赤字で何千人解雇なんていう記事、よくありますよね。それ…どういうことなんやろな?っていうことなんですよ。そういうニュースって、世間で慣れてしもてるんやけど…考えてみたらめちゃくちゃスゴイことですよ。「さあ、次の年はどないすんねん!?」って…常に追いかけられたり、追い詰められたりっていう中で組織が動いてるって…来週の売上、明日の売上どうするかって必死になってるじゃないですか…。めちゃくちゃ不思議なんですよね…なんでそんなにアップダウンを繰り返しながら、必死になって…人をすぐ解雇したり、外からまた人を引っ張ってきたりの繰り返している状況が普通って…やっぱり、それはどこかおかしいんとちゃうかなって…。
河合 まあ、これからの時代、大手企業であればあるほど、もっとしんどくなるでしょうね。先ほど話に触れたように、確実に日本はあと15年で人口が3分の1くらい減るし、古き良き日本のものづくりは価値創造へのチャレンジ精神に充ち溢れていたはずのものが、いつのまにか会社を維持することが目的になってしまっているようにしか見えないこともありますから…。
荒西 それそれ…よくその話になると「それは仕方がないやん」という人もいますよね。それって、個人のレベルでの「仕方がない」ってすぐ言う人もいます。…でも、それは「仕方が無かったら仕方なく生きてる」っていう風にしか、ボクは思えないんですよ。やっぱり、自分で覚悟を決めてカラダ張って価値を創る道に進むっていう風に変わらなければ、何も産まれないですよね。
だけど、大半の人は、将来への不安感を押し殺して「まあええやん」のまま進むから、「まあええやん人口」が何千万人もおるんですよ。「もう…独立したいんですわ」っていう子がいたら、覚悟を決めて変わろうとするところをポンと背中を押してやる人間とかも必要だったりしますね。
河合 それで言うと、逆に、組織を辞めんとそこに踏みとどまればええのにっていうこともあったりしますよね。たとえ組織に残っていても、どこにいる誰をどう喜ばせる価値を創れるのかが明確ならば、そこでしっかり力を発揮すれば良いしね。
荒西 もちろん、それもありますね!
河合 「ボクは自己実現したいんです!…だから独立したいんです」っていう人がたまにいますが、それはどこにいる誰をどう幸せにする事業なの?と聞くと、大した答えが返ってこなかったりして…。
荒西 あ~…そういうタイプ…見ていてすぐに判りますね(笑)…むしろ、会社にいて能力発揮しときなはれっていう人もいますね。
河合 逆に、「どこにいる誰をどう幸せにする事業をしたい」って明確な軸を持ち始める人は、世の中への批判や愚痴を言ったりせずに…すぐに行動を起こしていますよね。
荒西 そうやね(笑)
河合 それで、そういう人と出会うと、決してラクはしていないけど、楽しく仕事と向き合っている。仕事と向き合っているって言う人は、必ず自分のお客さんと向き合っていますね。
結局…一人ひとりが、その原点に戻ると良いですよね~
荒西 ちょっと話逸れましたけど…その独立ということについての話ですけどね…(笑)
コンセプトとやり方がしっかりしていれば、組織に居ようが独立しようが、絶対に食って行けると思います。それと、幸せって自分で創るもんやから…そんな自分次第やんっていうことですよね。
河合 さっき、消費者の話をしていましたけど…そろそろ一人ひとりが、何かに依存せずに、ラクをせずに、自分らしい暮らしを楽しんで自分で探していこうという話をしてました。
これって、なりわいとか仕事も、まったく一緒のことで…一人ひとりが、何かに依存している間は、何も産まれて来ないんですよね。組織に属していても組織から見たら邪魔な存在やし、独立してもマーケットから評価されないことになる。
自分の存在意義は、どこにいる誰にどういう幸せをつくる役目がある…それが「なりわい」であり、田舎に住めば、さらにそのなりわいのチカラが求められますよね。
荒西 でも、ボクなんか、都会暮らしも田舎暮らしもどちらもめちゃくちゃ楽しんでいますよ。久々に都会に出てくるとワクワクしますもん…(笑)
河合 結局…荒西さん…それって、またまた象徴的な事で…生き方や働き方や暮らし方としっかり向き合っている人は、どこに住んでいても、どこに属していても、楽しめるっていうことなんでしょうね。ラクなんて、一切していないから楽しめるし、楽しみを自分で開拓しているから、ラクできていないだけで…(笑)。
荒西 そうですね(笑)
河合 要は…独立性・独自性なんでしょうね。自立と自律…つまりは、インディペンデントな人であることが求められるんですわ。そもそも、一人ひとりのなりわいのチカラ…どんなに小さなことからでも良いと思うんですよ。
荒西 確かに!
河合 地元ミニバスケのご指導をずっと観察していたら、シュートを決める子だけがヒーローではない。必死にルーズボールを拾う子、めちゃくちゃシュート決めやすいところに正確なパスを出す子、空中戦で負けそうならまず地上戦でポジション獲りを必死にする子…どれも一つひとつの小さな仕事が、めちゃくちゃ大きな役割を果たす。それを徹底してミニバスケを通じて子供たちに気づかせようとされているんです。
それって…まさに「なりわいの原点」やったりするんですよ。
荒西 それ…もう…ものすごい大切なことですよ!
河合 その「なりわい」の積み重ねが、いかに大切かを気づかせることが、育みの原点やと思います。一昔前でいうと、有名大学に入って有名企業に勤めることがゴールになってしもてる…もう、そんなことどないでもエエことですもんね。どこの大学に行こうとも、それはナニを学ぶかやし、どんな企業に就職しようとも、自分はどこでどんな「なりわい」を創るかのほうが大切っていうことなんです…。
荒西 いや~…もう…ホンマに…。河合さんココの話になると熱いっ(笑)
河合 あ…ごめん…長々喋ってますね。
荒西 いやいや…イイですよ。もう語って下さい(笑)…とにかく…恩と礼儀は、仕事をしていく中でも、めちゃくちゃ大事ですわっ!!
河合 でも、そういう恩とか礼儀って、特別なものではないはずで、日々の暮らしの中に常にあることなんです。日々の暮らしから、自然と磨かれる感性なわけですから。
そう言えば…先日、別の会合で、都会から田舎にIターンやUターン起業された方の言葉に…「都会にいるときよりも、四季の移ろいを感じられるようになりました」とおっしゃる方が数名おられました。それ…実は物凄く大切なことであって、四季の移ろいを感じられるということは、そこにクリエイティブ性が生まれるチャンスがあるっていうことでもあるんです。
荒西 そうなんですよ~!まさしくソコなんですよ!
河合 そういう部分の感受性から生まれる暮らしのワクワク感って…時には、それが価値創造力の育みの原石になったり、商いや「なりわい」のヒントになる可能性だってあるんですけど…世間一般では、まだこういう話って、ロマンチストの戯言みないな感じで流される傾向にあったりして…
荒西 いやいや…四季の移ろいを感じるって…めちゃくちゃ大事ですよ!
河合 スミマセン…なんだか熱くなってしもて…(笑)今日は、主に大きく二つの話をしていました。
一つ目は、いま話していたとおり、どこの組織に属していようが、どこで独立して店を構えようが…自分がどういう価値を創る人になるのか…そこが大切であるということ。
二つ目は、一人ひとりの消費の姿がもう少し変わっていってもエエんちゃうか?っていう話でしたね。自分がナニを買うかではなく、自分は誰から買うのか…もしくは、自分らしい暮らしを誰が創ってくれるのか…そういう「誰が」と「誰が」という顔が見える範囲のなりわい同士の交換が始まると、それは小さいながらでも立派な経済循環になり得るという話でした。
荒西 それがまさにコミュニティですね。
河合 そうそう!ところが、普段こういう話をすると、「それってキレイごとやん」で失笑を買うこともあるんやけど…確かに日本全体の経済構造の全てを、なりわいの循環型経済にっていう話には無理があります。そうではなくて、顔が見えるコンパクトな範囲で実践していけば、ある程度のところまでは充分成り立つと思っていたりするんですよ…。
荒西 さっきの河合さんの話に出てきた街にミニバスケを教えるおじさんがおられるなんて、そういう身近なところに素晴らしい人がいるっていうことは、理解せなあかんことなんですよね。
一方でね…大手百貨店さんなんかでも、有名やからというだけで、その人を呼んでイベントなんかやっても、それはその時だけのことになってしまうことってあるわけで…求められるカタチで継続されていくことって何かっていうのを、もっと個人個人が考えて行かないとアカンことですね~。
河合 しかしまあ、今日ボクらが喋っていることって、何も特別なことではなく、ボクらの中では、随分と「あたり前」と思っていることが多くて…そう感じられる人が多くなると、それは一つのスタンダードになっていくんやろうなって思いますね。働き方やなりわいへの向き合い方、自分の暮らしへの向き合い方、子供の育みのあり方なんていうのもそうですよね。
さあ…最後のまとめに、自分のfacebookにつぶやいていたことを含めて、一気に喋りますね。
荒西 すでに、めちゃ喋ってはりますやん…(笑)
河合 ダラダラと喋ってきたトークライブも、そろそろ、まとめに入ろうと思います(笑)。
最近ね…ボクとうとう「ライフスタイル提案」っていう言葉にも、どこか違和感が出てきてしまいましてね…。もちろん、各業種においてライフスタイル提案型という業態があること自体は否定してないんですよ…。だけど、そういう生活様式を供給者側がつくるんやなくて、今日の話に出ていたように、一人ひとりがインディペンデント…つまり自立や自律の覚悟の上に成り立つ個々の暮らしの質が高まることの方が大切やなあと…。
要は、消費者側が供給者側からライフスタイル提案ばかりされている場合ではないんと違うかなと…自分のライフスタイルは、そろそろ自分で持ちましょうよって気がしていたりします。
そうした中で、今度は事業者側に、一人ひとりのお客さんのライフスタイル…つまり独自の価値を個々のお客さんと共に創る感じになることがあたり前の世界になってくるんやないかなあと…。そう考えると、荒西さんが今されているお仕事のスタイルって、お客さんと「価値を共に創っている」ものやと思うんです。
荒西 あ…そうなんですね?…なんや…そう言われて…わかりました。(笑)
河合 うん。(笑)…今までなら、他社との差別化における付加価値みたい意味での競争社会やったと思うんですけど、これからは価値を「共に創る」ほうの「共創社会」になってくるやろうなあと…。だけど、そういうことがスタンダードになるためには、やっぱり一人ひとりが自分らしい暮らし探しはラクをせずに自分で創ろうとしないとアカンし、しっかりとした「なりわい」のチカラをつけないとアカンかなと…。
荒西 うん…。ホンマそうですわ。
河合 それを日本全体でやりましょうなんていうこと自体はナンセンスですから、目の行き届く範囲…つまりは「顔が見える範囲でコンパクトに循環型の経済をつくる」っていう事例が少しずつ増えてくればエエなあと思います。
もちろん、荒西さんは、そんなことができるお一人やないかなあと思っているわけですよ。
荒西 ホンマですか?なんや…言われたらそんな気もしますけど…ホンマですか?(笑)
河合 …っていうか、すでに実践し始めてはりますやん…(笑)
今日、この場でマルシェをやって出店してもらっている方々も、まさにそこに近いんですよ。今までは、企業の生き残り戦略用語でオンリーワンという言葉が使われがちですけど、本来、一人ひとりの家庭こそがオンリーワンで、その一人ひとりのオンリーワンを実現することを手伝ってあげる事業者がもっと注目されるべきやと思うんです。
でも、そういう業態ほど、暮らしに密着したクリエイティブ性が求められるから、大きな組織が運営するのには無理がある…。だから、先ほど荒西さんも言うてはったコミュニティなんでしょうね。そこにある循環型経済を少しずつ実現できればなあと思います…。
荒西 前にいたgrafにいたときは、ボクら役員6人とスタッフが6対1で面談するのを年一回やっていたんですけど…今年どうやって来年どうしたいっていうのをヒアリングする面談をするんです。
そこで「来年こんなことしてみたい」っていう子がいたら、ほんならそれ…やってみたらエエやんって言うんですよ。他人の妬みや後ろ向きなことばかり言う子は辞めて行っていましたけど、前向きにどんなことやりたいかっていうことをハッキリ言う子には、やらせていました。結局…その子に何を活かすかっていうのは、先ほど話に出ていたことと同じなんですわ。その子のやっていくことの責任は、我々経営者が負えば良いわけで、とにかくやらせるんです。
そういう子って、黙っていても夜中まで残ってでもやろうとするし、その子の中にある技量であるわけやから…いつまでも、ボスの思う通りにやっていくと、いつのまにかマーケットには評価されないものになりがちやし…人を活かすっていうのはエエことですね。いつまでもボスが「ワシのいう事を聞け」っていうところは、その企業はいつまでも成長しないですしね。
河合 まあ、「社長の言うとおりに」というのは…いつまでもやっていたら、社長の顔色だけを見て仕事するようになりますしね…(笑)
荒西 そうそう…そうなんです。仮に社長の言うとおりにやっていておカネは成長したところで、その組織の人は成長しないでしょ。その成長していない部分をおカネに換算してみたら、すごく残念な数字になるやろうし…いつか自分の会社の将来に返ってきてしまう…。
河合 その子が持っている感性ならではの価値が、暮らしに密着していたりするクリエイティブなことだったりすると、会社が創ろうとする価値にそれを取り入れていないと大きな損失になっていることだってありますよね。
荒西 そうなんですよ…ポテンシャルを活かすっていうことを、もっとすべきなんですよね。
河合 その荒西さん達がされていた「責任はトップが取るから、若い子にチャレンジさせる」っていうのはイイですね。そのチャレンジ自体に意味がある。
荒西 そうなんですよ。やっぱりやらせてみるっていうことは、これからはめちゃくちゃ大切やと思いますね。ある程度、自分でやる仕事の技量を自分なりに創っていって、勉強させないと、いつまでも自立できないんですよね。そうしないと、流れてきたこと言われたことだけやりましたっていう子ばかりが職場でも出てきてしまうんです。
河合 そうですね…。それはいつまでも能動的な姿勢は生まれず、いつまでも受動的な働きになりますね~。もう…「なりわい」なんていう話からどんどん遠ざかってしまう…。
荒西 昔はそうではなかったでしょ?例えばバイク屋さんに修理を持って行った時に、「はい、ココ直しておきました。はい、3万円です。」って修理済みのバイクをお客さんに返すか、ホイール磨いてあったり、シートもピカピカになっていたら、お客さんだって嬉しくなって「次もまたココに」って思うでしょ?
でも、今の世の中って、変にそんなことまでやると、どこ触ってんねんってお客さんにクレーム言われるかもしれへんから、触らんとこ…ってなるじゃないですか…。
河合 あぁ…なんだかギスギスしてますよね。
荒西 そうなんです。「もう!ここはキレイにして欲しくなかったのにっ!」…とか、変なクレーム(笑)…もう…そうなると、ナニそれ?みたいな…ちょっとの親切が仇になったり…(笑)
河合 権利主張ばかりしていたら、そこに価値は生まれにくいですけど、お互い少しだけでもいい、半歩くらい敷居またぐぐらいの人間関係のところに、お互い価値を創ろうとするなら、ギスギスどころか、ソコが満足度につながって、また友人知人を紹介したくなるつながりになる可能性もありますよね。次につながるって、めちゃくちゃ大事なんですけどねぇ…(笑)
荒西 そうなんですよ。流動的やったら、もうこちらも流動的やと思って、ホンマに一回こっきりの付き合いやでと割り切ってしまうしね…(笑)
河合 「次につなげる」…この言葉…めちゃくちゃ大切な話になるので…この「次につなげる」という話だけで、ボクはあと2時間喋れますけど…
荒西 もう…やめて…(笑)
河合 まあ、この辺でお時間になったのでそろそろ終わりましょうか…(笑)…ホンマにダラダラ二人で喋りました。とにかく、ボクらから何かこの世の中変えてやるぞ!なんていう革命家でもないし、大きなことはできません。
しかし、先ほどもお話ししていたように、ボクらがあたり前と思うことを、これからもあたり前のように「なりわい」も「暮らし」も創っていきます。そして、そういうことが一つの軸になって、共鳴されるようになると、ボクらのようなスタンスの支持者や共感者も増えると思うし…(笑)
荒西 いやぁ~ホンマですよ。そして、そのチカラは凄く大きいですからね!
河合 今回、この「こもれびと」マルシェに出店している11名って、ボクらが思っている「あたり前」のスタンスを、とても自然体で実践されているし、この11名はいつもJimdoCafeでは、「皆さんの取り扱う商品の先にあるお客様の幸せってナニですか?」っていうことを高め合ってもらっているんです。…なかなか崇高なことやっているでしょ?(笑)
荒西 ホンマ…それ…凄いことですね。
河合 そういう高め合いの場は、ボクらなりの身の丈で、これからも続けていきますね…(笑)。
さて、皆さん!ホンマ、よかったら篠山まで出向いて、荒西さんのお店に遊びに行って、いろんなことを感じ取ってみてください。
ご参加の皆さん、荒西さん、長時間ホンマにありがとうございました!
荒西 ありがとうございました! <拍手!>
写真協力:池田 かよ
Backstage,Inc.
カワイ ヨシノリ